日本の製造請負業界は、戦後の高度経済成長期に始まり、国内産業の根幹を支えてきました。1950年代に鉄鋼業や造船業で外部労働力の活用が始まり、特に一部の自動車製造業では生産効率の向上と労働力の柔軟な管理を目的として、特定の技術や知識を持つ請負会社を工場内に受け入れました。このような動きは日本の産業発展において重要な役割を果たすとともに、製造業界の労働形態にも大きな影響を与えました。
1985年の労働者派遣法の制定により、労働市場に「労働者派遣」という新たな制度が導入されました。しかし、この時点では製造業務への労働者派遣(製造派遣)は禁止されていたため、製造業の現場では、引き続き「請負」による外部労働力の活用が図られることとなります。労働者派遣と請負では、労働者の安全衛生や労働時間管理などにおいて、雇用主、派遣先及び注文主が負うべき責任が異なるため、1986年の労働省37号告示(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」)が発出され、派遣や請負で働く人々の安全衛生対策や労働時間管理の適正化をはかっていくこととなります。
1990年代に入ると、自動車部品や電子機器の量産型組立工場で構内請負の導入が急速に広がりました。この変化は、製造業における生産様式の変化と密接に関連し、生産変動への対応や雇用管理の負担軽減が主な目的となりました。特に一部の自動車製造業では、この時期に労働力の柔軟性と効率化を重視し、請負労働の活用がさらに進んだとされています。
1990年代後半には、製造業界における労働力の二極分化が進行し、高度な技術を必要とする職種とそうでない職種との間で労働条件や待遇に大きな違いが生じるようになります。製造請負業界でもこの動きへの対応が重要な課題となりますが、一方で二極分化の進行は、製造請負会社が提供する専門的な技術やサービスの需要増加につながり、業界の成長を後押しすることにもなりました。
2000年代に入ると、グローバル化の進展により、製造業界ではさらなる効率化とコスト削減が求められるようになりました。この大きな変化に直面し、製造請負業界も、より専門的な技術やサービスの提供が求められるようになりました。
このように変化してきた製造請負ですが、2004年4月、製造派遣の解禁という重要な変化に直面します。これまで労働者派遣の対象業務は限定されていましたが、対象業務の拡大を求める社会の動きを受け、派遣法の改正によって製造業務への労働者派遣が可能となりました。
これは、日本の製造現場における働き方に大きな変化をもたらしました。製造業における非典型雇用の増加は、特に1990年代中頃以降、電機産業や自動車産業を中心に広がっていましたが、製造現場では禁止されていた派遣労働が解禁されたことで、製造業における労働市場の柔軟性が高まり、各企業は生産活動の変動に、派遣労働・請負の積極的な活用で対応するようになりました。
他方、この改正は労働者保護の観点からも重要な意味を持つものでした。製造業界においても、労働者の権利保護と待遇改善の強化により、正規雇用者と非正規雇用者間の格差を縮小することが求められ、労働市場における公平な雇用慣行の促進、労働者の権利と福祉の向上が業界の発展には不可欠との意識が強まるようになります。
社会の動きに合わせて変化し、労働市場を支えてきた製造請負業界ですが、2006年に「偽装請負」という深刻な問題に直面しました。偽装請負とは、形式上は請負契約が結ばれているものの、実際には発注者から請負労働者への直接的な指揮命令が行われている状態を指します。
労働者派遣のように派遣先が派遣労働者に直接指揮命令を出すことは、請負契約では認められておらず、このような違法行為の存在が社会的に大きく取り上げられたことで、製造請負や派遣事業の運営におけるコンプライアンスの徹底が急務となりました。
「偽装請負」という深刻な問題に対して、厚生労働省は2007年に「製造請負ガイドライン」を発表し、請負事業主および発注者双方に向けた適正な業務運営の指針を提供しました。このガイドラインは、製造請負事業に関する具体的な基準や注意点を明確にし、業界の健全化に寄与することを目的としています。
更に、2010年には「製造請負優良適正事業者認定制度(GJ認定制度)」が設けられました。この制度は、請負事業の適正化を図り、業界内の優良事業者を表彰することにより、業界全体の品質向上を目指すものです。
製造請負・製造派遣を行う事業者の業界団体、日本生産技能労務協会(現・日本BPO協会)は、2007年より「請負事業適正化雇用管理改善推進事業」を厚生労働省から受託し、GJ認定制度の運営などを通じて、製造請負および製造派遣業界の健全化に貢献しています。
偽装請負の問題は、製造請負や製造派遣業界における法令遵守の重要性を浮き彫りにしました。業界内での不適切な業務運営に対する厳しい監視と、適正な業務運営の促進が、製造請負・製造派遣業界の健全な発展に不可欠であるということが、この問題を通じて明確にされたのです。
直近で起きた製造請負をめぐる大きな変化が2015年の派遣法改正です。この改正では、事業所単位および個人単位での派遣期間制限の導入、雇用安定措置やキャリア形成支援の義務化、特定労働者派遣事業の廃止など、多くの重要な制度変更がありました。これらの改正は、派遣労働者の保護と雇用の安定を図ることを目的としており、日本の労働市場におけるフレキシブルな雇用形態の利用を可能としながらも、労働者の権利を守っていこうとするものです。
派遣法の改正により、日本の製造業における請負・派遣の状況は大きな変化を遂げています。2004年の派遣法改正は、製造業界における雇用形態の多様化を促進する重要な一歩となりました。また2020年の法改正により、正規と非正規の間の格差縮小の動きが加速しています。
製造業界における働き方の多様化が今後も見込まれる中で、製造請負・製造派遣業界は労働市場全体の健全な成長に寄与していくことが期待されています。
日本BPO協会では、会員企業向けに法令改正の対応に関するセミナーを実施し、製造請負・製造派遣についての理解促進と円滑な対応を支援しています。
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